午後11時39分
なんだろう。久しぶりに、はじめて見る光景が目の前にある。いつもねむる前に窓の外をみて、晴れていようが雨が降っていようが自分の理解できる風景ならば安堵してねむりにつくのだけど…
濃い夜空と濃い霧に同化しそうなほどうす暗い雲が、一面にひろがっている。それも地平線のようにまっすぐ、美しい位置を保ちながら。
午後11じだけれど、いつもなら聞こえるはずのバイクの音やしゃべり声が全く聞こえてこない。
それに加えて、この部屋からは聞いたことのない”草木が風になびいている音”が聞こえる。風が強いのか、けっこうな音量だ。それがこの風景を前にすると波の音のよう。まるで夜の海にたった一人でいるような感覚なんだが、伝わるだろうか。
今日は課題に集中するため学校を休み、一日家に引きこもった。
窓のあいた風通しのよい寝室にきて、外の空気をちっとも吸っていなかったことに気づく。実にしんせんな味。時間的に言うと今日はのこり30ぷんある。が、なぜだかたった今から1日が始まる気がしてならない。今日の外の空気をいま、はじめて吸ったのだから当然の感覚かもしれない。眠れない夜になりそうで必死にホットタオルを目の上におく。押さえつけるように。
それでか、どうかはわからないけど、こんなふうに興奮して夜の海にたった一人でいるような感覚に陥ってしまっている。